飼い猫と、番犬。【完結】
副長から頼まれた時に沖田が女だと聞かされたこいつ。故にの正義感なのだろう。
先日も『剣豪沖田』を狙って、移転前に少しだけ身を寄せていた局長の私邸に刺客が入ったばかり。
幸いにもこっちに移った直後だった為、直接沖田が襲われることはなかったのだけれどもだ。
その為護身用にと置いていた木刀を振りかざす市村を、急いで前を閉じた沖田が慌てて止める。
幸い暗がりということで、俺の下にあった沖田の体までは見えていなかったらしいが、なんとも賑やかな夜になった。
結局、沖田の少々かい摘まんだ説明に渋々納得したそいつは俺達の間に割り込み寝ることに。
「俺も沖田さんも明日出立なんですからね!早く寝ますよっ」
元々最後までやるつもりはなかったものの、毛を逆立てた猫のようなそいつに火のつきかけた体もするりと毒気を抜かれる。
「あーはいはいおやすみや」
中途半端なところでの強制終了に不満がないでもない。
が、見張っているつもりなのか、横になっても尚じろりと此方を睨む市村の向こうに、苦笑いする沖田が見えて。
『おやすみなさい』
俺にだけわかるようにと口だけを動かして、そんな音のない言葉を投げるそいつに、不覚にも笑ってしまった。
不意に。
まるで親子のようだと思ってしまったのは、今見たこの状況が見事な川の字になっていたからだ。
──けれどもしかしたら。
決して手に入ることのないそれに、この俺もほんの少しだけ、憧れてしまったのかもしれない。
「……けほっ」