飼い猫と、番犬。【完結】
明くる日。
幸いにも空には晴れ間が広がり、降り注ぐ日差しにも仄かな熱を感じられる朝だった。
大坂には淀川を船で下る。
本当なら夜に発ち朝着くのが一番なのだが、血の足りない局長を冷え込みの厳しい夜に寒い船に乗せる訳にもいかず、少ないながらも出ている朝の船になった。
幸い此処から船着き場まではそう遠くない。
局長につく数人の隊士と市村、そして沖田が間もなく此処を発とうとしていた。
「……久々やな、袴」
支度を済ませた沖田の姿は、どこか以前のような凛々しさを感じる。
近頃すっかり穏やかだったそいつは、そんな俺の言葉に照れ臭そうに笑った。
「自分でもなんか少し変な感じがします」
けれど見せる表情はやはり以前と違って女のそれ。
少しずつ剥がれ落ちた柵(シガラミ)にから覗いた本来の沖田だった。
皆に囲まれた賑やかな日々。
それが沖田にそんな顔をさせるのなら、やはりあの時のこいつの選択は間違っていなかったのだと思う。
しかしながら。
今日の沖田の姿には一つだけ、気になるところがあった。
「その恰好やとやっぱし髪は高う結うた方がええな。やったるさかいにこっち来(キ)ぃ」