飼い猫と、番犬。【完結】
最近は専ら横になりやすいようにと低い位置で結うばかりだったその髪だが、久々に刀を差すのだ、高くで結わえた方がやはり似合う。
そうですか?、なんて言いつつ、じゃあと大人しく座った沖田の背中は嬉しそうだった。
「平助もたまに結ってくれたんです」
そんな惚気を溢す程に。
「……なんなら簪も差したろか?持っとるやろ、花飾りのついた江戸銀簪」
纏め上げた髪を結び終えたところでふと漏れたのは、以前たまたま知ったそんな記憶。
つけることもないのにずっと秘かに行李の底に仕舞ってあるそれは、『誰か』から贈られた物であることは明白で。
その存在をまさか俺が知っているとは思っていなかったのか、くるりと振り向いた沖田の目が驚きに見開く。
けれどそいつは二、三度ゆっくりと瞬きを繰り返したあと。
どこか嬉しそうに破顔した。
「気になるなら今から本人に返してきますけど」
「なんでやねん、つけてもええ言うとるやんけ」
「そーですね、またいつか」
あまり考えずに溢れた言葉なだけに、そこまで余裕で返されると立つ瀬もなく。
くすくすと笑う沖田についと眉が寄った。
……強かになりおってからに。
「行きますね」