飼い猫と、番犬。【完結】
結わえた髪を揺らして、沖田が首に絡み付く。
ひやりと舞った風とは対照に、首筋に触れた肌が温かくて心地いい。
「気ぃつけや」
「貴方も」
言っても高々大坂に下るだけ。
掛かる時間も半日程度と特に長くもなく、然程危険もない船旅だ。
沖田の体調もまだそこまで酷くない。ただ局長が心配なのと、屯所を出た時期が重なっただけ。
暫く会えないとは言え、局長と共に下る以上、またその内顔を合わせることになるだろう。
故に、正直そこまで深くは考えていなかったのだが。
珍しく自分から抱きついてきたそいつは、離れるどころか更に腕を回して擦り寄ってくる。
そんなそいつに違和感を覚えた直後。
意を決したように腕に力を籠めた沖田の熱が、ぎゅっと首筋に押し当てられた。
「けほっ……。いつもの仕返し、です」
勢いか、はたまた単に加減がわからなかったのか。
思いの外きつく吸い付いた沖田は、そのままそこに顔を埋めながら小さな声で呟くからこそばゆい。
俺が執拗に痕をつけるのと同じ場所なのはきっと、わざとで。
また随分と可愛らしい仕返しだと鼻で笑って、腰に回した腕に力を籠めた。
「……お望み通り見せびらかしとくわ」
「べ……っ、別に見せびらかさなくていーですっ」
「取り敢えず出る前に市村やな」
「そ!それだけは絶対に駄目ですって!」
「えーやん、これも教育や教育」
「絶対違うっ!」