飼い猫と、番犬。【完結】
加えて、今日の戦いにおいて新政府軍と名乗る彼方の連中が突如錦旗(キンキ)を掲げた。
戦場に堂々と上げられたその赤い錦の御旗は天皇の軍である証。
これまでただの反勢力でしかなかった奴等はそれを以て朝敵(朝廷の敵)討伐を命じられた官軍となり。
それに刃を向ける俺達こそ朝敵──今やただ追われる立場となった。
この人が信じ、沖田との未来を捨ててまで目指してきたものがいとも簡単に呆気なく崩れ去った。
鬼のふりをしていても所詮はただの仲間を思う優男だ。
此度の事は間違いなくその信念に大きな動揺を誘ったに違いなかった。
「向こうは?」
「大人しぃもんや。取り敢えず今夜は動かんようやな、まぁ当然やろ」
旧式の銃と刀が主な此方に対し、向こうは新型の銃を備えている。
明らかな戦力の差。
昨日今日の勝ち敗けの結果を見ても、向こうにとって俺達は寝首をかくまでもない存在なのだ。
戦においても俺の役目は変わらない。寧ろ正しい情報は勝敗をも左右する。
淡々と事実を述べた俺に、副長が短く笑った。
「ざまぁねぇなあ」
そう自嘲するその人の顔は影に隠れて見えない。
だが、きつく握られたその拳が全てを語っている気がした。
「やっと召し抱えられたと思ったらよ、近藤さんはもう刀が握れるかもわかんねぇ、源さんも死んじまって総司もあれだ。挙げ句に朝敵だとよ。俺達は……俺は何の為に……っ」