飼い猫と、番犬。【完結】
沖田が女であることを捨てたのも、その手を血で汚すことになったのも全ては京に上ったが故だ。
武士になる、ただそれだけを目指した結果がこれ。
鬼を演じ、仲間を失ってまで辿り着いた先で待っていたのは、あまりに脆い武士としての立場と朝敵として追われる現実。
一日にしてくるりと反った正義には、確かに愚痴の一つや二つ溢したくなるだろう。
俺とてそれはわからないでもない。
だが、後悔ばかりで頭を埋められては困るのだ。
「何の為にて、自分の為やろ。それにや、別にまだ大樹公がやられた訳やない、どないなるかなんてわからんわ。局長がおらん今、自分は名実共にうちの頭なんやで?んなとこで腐ってもろたら困んなぁ」
新選組の名につられてやってきた連中なら好きに後悔すれば良い。
だが隊を作り上げ、その上に立つ者として、この人には最後までそれを全うする責任がある。
粛清、闇討ち。
これまで落ちた幾つもの首の上に、俺達は成っているからだ。
「今更もうどないもでけんのや。ほなら己の主君に仕えるんが自分らの言うほんまもんの武士とやらちゃうん」
もし、はない。
役に立たない後悔をするくらいなら、阿呆みたいに前だけを向いてみるのもまたありだと思う。