飼い猫と、番犬。【完結】
冷たい風がさわさわと草木を揺らして俺達の横を吹き抜けてゆく。
木の幹に凭れて座るその人の顔はやはり大きな影に覆われ見えなかったけれど、そこから吐き出された溜め息に、辺りを包む気配が少しだけ軽くなる。
「……てめぇに言われるたぁ俺も落ちたもんだ」
「何言うとんねん、俺の方が年も上やし、そこそこ修羅場も潜っとんねんぞ。敬え」
こちとら自分等が京に上ってくる前から魂張って裏の仕事やっとったっちゅうねん。
基本的に単独で動く俺達は、何かあれば全ては己で判断する。
だからこそ、時には逃げることも必要だと理解しているし、窮地の際の切り替えは割りと早いと自負している。
俺達みたいな連中は生きて帰ってなんぼの世界だからだ。
「夢やらなんやらっちゅう綺麗事に現ぬかしとる場合やあらへんで、頭が寝呆けたまんまやと俺ら手足はどないも動けん」
「……煩ぇ年寄り」
「おいこら誰が年寄りや」
そんな俺の言葉を軽く流し、副長は脇に置いていた刀を握る。
カチャリと音をたてたきり再び黙り込んだその人は、今一度その重さを確かめているようだった。
「……最近のあいつは、すっかり女の顔に戻っちまったな」
「……何やねん急に」
あいつ、というのは聞くまでもなかったが。
一瞬、何の脈絡もなく聞こえた呟きに思わず眉が寄る。
その裏に、嫌な覚悟が見えた気がしたから。
「敬えっつーからだろ。……これでもあれだ、一応感謝してるんだ」