飼い猫と、番犬。【完結】
「今のが本来のあいつなんだよ。ころころ笑って、わかりやすくて甘えたで。なのに……京に来て人を斬って、あいつは変わっちまった。自分を圧し殺すことばっか上手くなって、俺達の前ですら嘘臭ぇ笑みしか溢さなくなった。前日まで仲良く喋ってた女を手にかけることになった時ですらあいつは、ただ笑って俺の背を押した。誰がどう見ても痛々しいあいつを、皆、どうすることも出来なかった」
そんな独り言のような呟きに、あの雨の夜を思い出す。
泣きそうに笑っていたあいつを。
常に警戒心剥き出しで、にこやかにしながらもどこか周りと一線隔てたような気配を纏ったあの頃のあいつは、きっとそうすることで自分自身を守っていたのだ。
「……だがお前に本気で苛々してるうちに段々と人間らしさを取り戻していきやがった。単純だよなあいつも」
くくっと嫌味っぽく笑った副長だったけれど、あいつも、と言ったその初めて聞く優しい声音に、その人の想いが滲んでいた。
あれ以降も決して必要以上に沖田に近寄ることのなかった副長だが、その父親のような穏やかな感情にはある意味感服する。
それは、俺には決して出来ない想い方だ。
「なんやえらいしおらして気色悪いな」
「良いじゃねぇかたまにはよ。んな照れんなって」
「照れてへん。ちゅうか、死ぬかもしれん思とんのと死んでもええて思とんのはちゃうんやで。よぉ覚えときや」