飼い猫と、番犬。【完結】
必死になるのと投げやりになるのとでは結果は大きく違ってくる。
何となく釘を指したのは、この人が後者を選んでいるような気がしたから。
「……覚えとく」
うちは何だかんだで阿呆ばかりなのだから。
「お前も、死ぬなよ」
細い月が雲に隠れて辺りが一段と暗くなったその時、不意に首筋を掠めた風に咳を溢した俺に、低い声が返される。
井上助勤を始め、既にうちにも何人もの死者が出た。
錦旗が掲げられたこともあり、昨日、今日と流れはどんどんと悪い方へと傾き士気は下がる一方。
浪士を相手にするだけのこれまでとは違い、銃弾までもが飛び交う此度の戦では、誰も生き残る保証などない。
明日も、間違いなく多くの死者が出るだろう。
それをわかって、この人はそんなことを言うのだ。
「命令やったらしゃあないな」
「絶対に戻れ。でないと俺が殺してやる」
「無茶苦茶やんそれ、っけほ」
名前こそ出さないものの、沖田の為にといっているのは明白で。
それを理由にしつつ、人の心配をしてみせるこの人は、やはり甘い。
「五月蝿ぇ、んな時に風邪引くような奴ぁ信用出来ねぇからな。しっかりしろよ」
漸く立ち上がった副長は、そんなことを言いながら俺の肩を叩いて横をすり抜けていく。
その反動でまた出た咳を手の甲で受け止めて、遠ざかる気配にゆるりと口角を上げた。
「……言われんでも」