飼い猫と、番犬。【完結】
振り返った副長が声を荒らげ目を見開く。
けれどそれに返事を返す余裕はなかった。
「ごほっ」
爪先に力を籠め、背に受けた衝撃に押された体を支えるも、溢れた咳に鉄臭いものが混じる。
それは、痛みというよりも火で焼かれたかのような熱。
背中から胸を瞬時に襲ったその感覚に、掌を握りながら奥歯を噛み締める。
通り抜けた様子のないそれはただ静かに胸の奥を焦がし、一瞬、呼吸までもが奪われた。
……くっそ、やってもうた。
「馬鹿か!率先して撃たれる奴がどこにいる!」
次の瞬間無理矢理引き倒された体はその腕によって受け止められる。
反動で襲った痛みに顔が歪むも、未だ銃声の響く此処では致し方ないことで。
口内に残る鉄臭い唾を、乾いた土へと吐き出した。
「俺かて不本意や……男の腕に抱き止められるとかほんま勘弁やで、っ、ごほっ」
「あーそんな口きいてられんなら大したことねぇなあっ。……歩けるか?」
軽口を叩いてみても、咳をする度激痛が走る。
あまり動きたくないのが正直なところではあるが、幾ら副長でも大の男二人を支えて此処を抜けるのは不可能だ。
……気張らんかい。
そう、指先に力を籠めて己を鼓舞した直後に聞こえたのは誰かが近付いてくる足音。