飼い猫と、番犬。【完結】





熱くて、寒くて。


何かを考えるのですら億劫だった。


浮いているような、沈んでいるような、そんなよくわからない感覚の中、時折誰かが俺に触れる。


何か喋りかけられたような気もするけれど、それすらどうでも良くなるくらい眠くて。


俺はただ目の前の睡眠を貪った。


一度だけ。


真っ赤に焼けた火箸で肉を抉られるような、これまでにない痛みに襲われたことだけははっきりと覚えているものの。


それ以外は昼も、夜も、今自分が何処にいるのかさえもわからなくて。


だから、ゆらゆらと揺れるような感覚に意識がすっと引き上げられた時。


目の前にあったその寝顔すら違和感なく、極自然に受け入れることが出来た。






「沖田」



思いの外掠れた声に、伏せられた沖田の睫毛が微かに震える。


青白い仄かな月明かりに照らされ影を作る顔。


いつものようにその頬に触れようと腕を持ち上げかけたところで、背に走った痛みに漸く朧気な記憶がゆっくりと浮かび上がった。



此処は……何処や?




「……やま……ざき?」



ゆっくりと頭を持ち上げた沖田の目が、俺を見つめて大きく開かれていく。


しかしながら大坂に下った筈の沖田が何故こんなところにいるのかがわからなくて。


未だ霞のかかった頭はそれ以上の思考を止めて、ただじっと、目の前のそいつを見つめた。





「山崎っ!」
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