飼い猫と、番犬。【完結】
此処が何処かはわからないものの。
酷く驚いた顔で何かを確認するように、俺の顔に掛かった髪を掻き上げる沖田にそんなことはどうでもよくなった。
触れた指がひやりと冷たく、気持ち良い。
「……なんやねん」
「なんやねんじゃないですよ!貴方っ……もう何日も目を覚まさなくて、ずっと……っ」
怒りながらも泣きそうに顔を歪めたそいつは、きゅっと唇を噛んで涙を堪える。
その今にも崩れ落ちてしまいそうな様子の沖田に何となくの経緯を理解した俺は、もう一度、その頬に触れようと腕を伸ばした。
「っ」
「なっ、動いちゃ駄目ですよ!」
けれどそれは届くことなく地に落ちて。
身体を襲ったあまりの痛みに指が震え、一気に全身に汗が滲んだ。
「大丈夫ですか?今誰か──」
「……その前に、久々に会うてんから口くらい、吸うてぇや?」
眉間の皺は完全には消えていなかったと思う。
それでも僅かに笑みを浮かべて見上げた俺に、また、そいつの顔が歪む。
「何を……」
「ええやん……あかん?」
息苦しさに言葉が途切れる。
それでも今、人を呼ばれれば五月蝿くなるのは目に見えていて。
それならもう少しだけ、こうして静かにいたい。