飼い猫と、番犬。【完結】
互いの唇を柔らかに食み、舌先だけで軽く触れ合う。
穏やかな口付け。
冷えた指先と違い、その柔らかな感触から伝わるのは仄かな温もりで。
そんな静かに混じる体温にふと、初めて唇を重ねたあの日を思い出した。
頑なな拒絶。
泣きそうな顔をして、作り笑いで虚勢を張るそいつは初め、ただの楽しいおもちゃでしかなかったのに。
気付けばこうして互いに温もりを求め合う仲になっていて。
この俺が、愛おしいなどと思えるのだから人生とは本当によくわからなくて、面白いものだと思う。
こうして終わりが見えたところで特にこれといった恐怖も湧かないのは、好き勝手やってきた故の結果なのか。
離縁してからずっと一人気ままに生きていた俺。
共食いする血の気の多さに惹かれて首に鈴を付けたあとも、思いの外自由で癖のある連中に囲まれた塒(ネグラ)での生活は飽きることもなくて。
裏方の出番の多い此処はそれなりにやり甲斐もあった。
何より高みを目指す阿呆みたいに真っ直ぐな目は、共に同じものを見ても良いかと思える程に潔くて。
そんな新選組の一人として、あの男と金打ちを交わした者として、思うのだ。
こんな最期もまぁ、悪ぅない。
と。