飼い猫と、番犬。【完結】
「髪、また少し伸びてきたね」
ほぼ乾いた髪に櫛を通しながらそう平助が呟いた。
確かに京に来てから後ろ髪は一度も切っていない。
日野を発つ前に肩下辺りで切り揃えた髪は、今じゃ胸より下にくるまで伸びた。
平助は少しくせのある髪を面倒だからと短くざん切りにしているし、向かいの壁に凭れて静かに本を読む一くんだって結んではいるけれど、ほどけばギリギリ肩につく長さ。
梳いてもらった髪を一摘まみして毛先まで指を滑らせると、その長さがよくわかる。
「……私も、短くしようかな」
そうすれば乾きも早いし今よりは女顔だと言われなくなるかも。
中々の妙案だと思って言ってみたのに、すぐに後ろから意外な反応が飛んできた。
「ちょ! 駄目だよ絶対駄目! 良いじゃん勿体無いよ」
「でも乾かすの大変だし」
「じゃあ俺が乾かしてあげるからさ」
「や、流石に毎日それはちょっと」
何か悪い。それに平助だっていない時もあるし。
そう考えて遠慮したのに、どーしてさーと駄々をこねだした平助には苦笑いが浮かんでしまう。
歳も同じで遠慮のない平助は昔からどこか甘えん坊だ。そういうところが可愛いのだけど、たまにこうして言い出したら聞かないところがあった。
皆は私達を『似たようなもんだ』と言うけれど、平助の方が絶対精神的に幼いと思う。
そんな私達の会話を聞いていたのか、ずっと黙ったままだった一くんがふと顔を上げた。