飼い猫と、番犬。【完結】
「なら良いけどよ……」
気不味いような、窺うような、何とも言えない表情で私を見る土方さんから伝わるのは、優しさ。
もしかしたらこれまでも、今みたいに遠くからずっと気にかけていてくれたのかもしれない。
泣き虫で情に厚い近藤さんだってそう。
私達を包む状況は変わってしまったけど、大好きだったところだけはきっと、今もそのままだ。
「紛らわしくてすみません。けどやっぱり心配性なのは相変わらずですね、こっそり見るくらいならちゃんと声かけてくださいよねっ」
口を尖らせ、腕を払う。
山崎はこの人を庇って撃たれたのだと、この人から聞いた。
戦いにも負け、逃げるように大坂へと下り、山崎が逝って。今一等に責任を感じているのはきっとこの人だ。
だから私は、落ち込んでばかりもいられない。
「すぐ済ませますから待っててくださいね」
少しだけ微笑んで海へと向き直り、耳の下で一つに束ねた髪を掬う。
「え」
何か言おうとした土方さんを無視して勢いよく刀を入れると、髪は思いの外あっさりと切れて。
ふわりと少しだけ強く吹いた風が、海の上へと伸ばした掌からそれを浚っていった。
長さを失った髪からは、輪を保ったままの結い紐がぽとりと頼りなく、足許に落ちる。