飼い猫と、番犬。【完結】



外界から切り離された船の上はとても穏やかだった。


江戸に戻った大樹公を追っての船旅。


怪我をしてる人はいるものの、戦いもなく、波や風の音ばかりが聞こえる此処は、いつもより少しだけゆっくりと刻が流れているようだった。


少しずつ離れてゆく山崎との距離に淋しさを感じない訳ではなかったけれど。


嫌に軽い頭が何となくあいつを感じさせてくれて。


時折首筋を触っては海を眺める──それが、私の船上での日課のようになっていた。



そんな数日間の船旅を終えて漸く帰りついた東の地では皆と別れ、近藤さんと二人、松本先生に診てもらう為に神田和泉橋にある彼の医学所に入ることになった。



「……そうか、烝が」


大坂でもずっと面倒を見てくれた彼は、山崎のことを告げると悔しそうに顔を歪めた。


いつの間にか名前で呼び合う程に親しかったらしい二人。


私達のことも知っているこの人は、それでもあいつの満足そうな最期の表情を伝えると、目を細めて穏やかに微笑んだ。



「あいつは果報者だ」



と。




その日を境にまた、酷く平坦な日々が始まった。


寝て、起きて、一日の殆どを床について過ごす毎日。


京にいた頃と大きく違うのは、周りに誰もいないこと。


局長として時折出掛けたり人が来たりする近藤さんをずっと独り占めする訳にもいかなくて。


淋しさからつい鬱ぎがちだった私を見かねてか、その日、ぼーっと庭を眺める私のところに、意外な人がやって来た。




「……総司」
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