飼い猫と、番犬。【完結】
「……はい?」
久しく聞いていなかった声に、それが誰なのか一瞬わからず小首を傾げる。
だから振り向きその顔を見た瞬間驚いて、思わず瞠目したまま固まってしまった。
最後に見たのは五年程前だったろうか。
記憶よりも僅かに歳を重ねているものの、その顔は確かに私の記憶するその人そのものだった。
「……姉上」
……どうして。
私を内弟子に出したその人。
こっちに帰ってきたところで、もうお家にも関係なく、死病に侵されたこの体では二度と会うことは叶わないと思っていた。
連絡なんてしていない。
こんな体では迷惑だろうと、死んだあとに届くよう、文だけを誰かに託そうと思っていた。
内弟子になってからは数えるくらいしか顔を合わせたことのないその人。
遠い、遠い存在だったその人。
我が姉ながら突然現れたその人になんと言えば良いのかわからなくて、言葉が続かなかった。
「……土方さんが教えてくださったの。会ってやってくれって」
その口から出たのはまさかの名前。
確かに祝言を挙げると決まった時、一応の母親代わりだったこの人に報告はしていた。
でもすぐにその話をなかったことにして上洛した私達。流石に土方さんも顔を合わせるのは気不味かった筈だろうに……。
……土方さん。