飼い猫と、番犬。【完結】
その思いに胸が熱くなって、着ていた綿入りを握り締める。
でもだからと言って何を言えば良いのかはわからなかった。
元々気軽に話せるような間柄ではなかった姉上。
何を思って此処に来たのか。
男にも女にもなりきれず、人斬りに堕ち、そして今死の淵に立とうとしている妹を哀れんでいるのか──恥じているのか。
その顔を見るのが怖くて。
私は俯いたまま、ぎゅっと唇を噛んだ。
「……髪は、どうしたの」
「これは……先日、とある人に預けてきました」
「……そう、それなら安心しました」
「……え?」
何故安心するのか。
その言葉の意味がわからなくて、思わず顔を上げる。
そこにあるのは真っ直ぐに私を向いた双眸。
うっすらと涙を浮かべたその人は、確かに微笑んでいた。
「髪は女の命ですから。貴女にそんなものを預けられる人が出来たなんて、喜ばしいことでしょう?……奏」
今……奏と。
これまで姉上とは視線を合わせることすらあまりなかった。
いつも困ったようにすぐ顔を逸らすその人には、きっと疎んじられているのだと思ってた。
なのに何故、今そんな顔で、そんなことを言うのだろうか。
そんなの、まるで──
「……ごめんなさい」