飼い猫と、番犬。【完結】
その人が目を伏せた瞬間、溢れた涙がほろりと零れる。
「家の面倒を全て貴女に押し付けました。父も母も亡くなり家も落ちぶれ、私には既に男児と周知されていた貴女をどうすれば良いのかわかりませんでした。それでも家を出れば何処かで女子として歩む道もあるかと……あの時の私にはそうしてやることしか出来なかったのです」
この人も、これまでずっと苦しんできたのか。
次々と溢れる涙を袖で拭い、声を震わせながらも必死で言葉を紡ぐその人を見ていると不思議と冷静になって、さっきまでの恐怖が溶けてゆく。
互いが作り上げた壁が消えればそこにいるのは私と同じ、弱い……人。
「だから……あの方と祝言を挙げると聞いた時は嬉しかった……これで貴女も漸く女子として生きられると……本当に、嬉しかったのです」
けれど結局はそれも上手くはいかなくて。
深くを語らず、結果だけを告げて京に上った私に、この人は一体どんな思いでいたのだろうか。
罪悪感に苛まれ、怯え。
擦れ違った私達。
それでも私達はちゃんと、家族だったのだ。
「ごめんなさい……あの時私がちゃんと貴女を女子として育てていれば良かったのです。そうすれば貴女にこんな苦労は……っ」
「……良いんです、姉上」