飼い猫と、番犬。【完結】
もしかしたら、土方さんは気付いていたのだろうか。
だからこうして、この人を寄越したのだろうか。
これが、逸らし続けていた互いの顔をちゃんと見ろという叱咤だったらどうしよう山崎。
……あの人にまた、惚れ直してしまいそうです。
「……良いんです。私は今でもちゃんと、幸せですよ」
そりゃ確かに普通ではなかったかもしれない。辛いこともあった。どうして私なのかと恨んだこともあった。
でも、内弟子に出されてなければ皆にも……あいつにも出会えなかった。
色々なことを経験した。
良いことも、悪いことも。
でも沢山の人に支えられた今は、やっぱり不幸せとは思えないから。
「大丈夫です。……有り難うございます」
きっとこれで良かったのだ。
それから。
姉上は毎日のように此処に通って来てくれるようになった。
これまでの距離を埋めるように沢山話した。
始めはどことなくぎこちなくてよそよそしかった空気も、互いのことを話すうちにすぐに馴染んでいった。
土方さんのことや、山崎のこと。恋仲だった二人の話になると姉上は饒舌に食らいついてきて、本当に嬉しそうに笑った。
姉妹でいて、母子のような。
今まで女同士で語ることのなかったそんな話に多少の気恥ずかしさはあったけれど。
話しながら思い出すドキドキや愚痴に姉上が面白可笑しく茶化すから。
気付けは淋しさなんて微塵も感じなくなっていた。