飼い猫と、番犬。【完結】
そんな庭の隅から顔を覗かせた黒い猫。
私が庭を眺めているとよく現れるその黒猫は、いつものように沓脱石(クツヌギイシ:縁側に上り下りする為の石)へと下ろした私の足にすり寄って来る。
もしかしたら私は黒猫に懐かれる素質でもあるのだろうか。
否応なしに思い出すのは山崎という名の大きな黒猫。
話し相手の少ない此処での生活で、ふらりとやってくるその猫が私の第二の楽しみだった。
「お食べ」
残しておいた朝餉の米を掌に乗せて差し出すと、その黒猫はふんふんと匂いを嗅いでから口にする。
もう何度もあげているのに相変わらず疑り深い猫だ。
「誰も毒など盛りませんよ」
呆れる私にピクンと耳を動かして顔をあげたその子は、にゃーと返事のように鳴いて残りの米粒を舐め取り、一人(一匹?)さっさと膝に上がってくるりと丸まってしまった。
「もう……貴方がいると私が横になれないじゃないですか」
なんて文句を言ってみるも、その可愛さにすっかり骨抜きにされている私は頬もゆるゆる。
私は結局、黒猫に弱いらしい。
「……貴方は温かいですね」
野良にしては艶のある毛並みを撫でる。もしかしたら誰かの飼い猫なのかもしれない。
起きているのか寝ているのか、僅かに反応を見せたそいつは体を丸めたまま。