飼い猫と、番犬。【完結】
咲け咲けと思っているうちに、あっという間に通り過ぎた桜は葉桜になり。
燕が飛んで、紫陽花が咲いた。
人は、思いの外丈夫に出来ているらしい。
幾度血を吐いても、
咳が止まらなくても、
ただのんびりと庭木を眺めることだけは出来た。
体調が良ければ縁側にだって腰掛けられる。
そんな時、決まってやって来るのはあの綺麗な黒猫だった。
「……なんで、わかるんですか?」
相変わらず自由気儘にすり寄り去っていくだけのその子。
見たい花もなくなって。
ただ、またあの黒猫に会えたらと。
それだけが目を瞑る度、私の目標になった。
季節は梅雨。
雨が降るとあの猫のことを考えた。
濡れて、凍えていないかと。
起き上がれない日が続いて、何日もその姿を見ないと不安になった。
そんな私の心配を他所にふらりと現れ、愛想の欠片も振り撒くこともなく帰っていくそいつ。
それでもその姿を見ると安心した。
笑みが、溢れた。
名前は、付けなかった。
付けたら呼んでしまいそうで……怖かった。
その日。
夕方からうつらうつらと眠っていた私は、もう日の落ちた頃に目が覚めてしまった。
同じく昼寝でもしていたのか蛙が一匹、何処かで淋しく鳴いていた。