飼い猫と、番犬。【完結】
ふわりと柔らかい手触りが、近所にあるその寺でよく子供達と遊んでいる人懐っこい子犬の尻尾を思い出させる。
加えて私より小さなその体が庇護欲を掻き立てるから狡い。
屈託のないその性格から、女である私にも態度を変えることなく接してくれた平助はもう仲の良い弟みたいなものだ。
可愛いなぁもう。
「……うわー俺やっぱり心配なんだけど」
「……だな」
小さいとか、可愛いとか。
そんな言葉を嫌う平助をただ黙って見つめていただけなのに、前後から呆れた声が飛んでくる。
「総司、折角怖がられてるんだからあんまり他の連中に笑ったら駄目だよ?」
がしりと私の肩を掴んだ平助からは真剣な眼差しで妙な発言までされる始末。
折角怖がられてるって。
最早喜ばしいことではない気がするのは気の所為ではない筈だ。
「そんな心配しなくても大丈夫ですってば」
そりゃ長く男の世界に生きていれば、そういう嗜好の男もいるのは知っている。
女っけもほぼない此処。給金もまだ少ない平連中は外で女を買う金もない。
手頃なところで、それなりに見目の良い男が狙われると山野さんが顔をひきつらせながら言っていた。
でも。
「流石にあれだけ稽古でやられた相手を襲う馬鹿はいませんよ。部屋以外では帯刀だってしてますし」
「でもさぁ、最近妙な噂が流れてるの聞いてない?」
……、噂?