飼い猫と、番犬。【完結】
そんな時、不意に誰かが後ろに立たはったんどす。
「……立てますか?」
こんな雨の闇夜でもよぉ通るその声は、顔を見ぃひんでもわかるんえ。
うちが初めて此処に通うた時から何度も帰りや言うて忠告しにきてくれはった子ぉの声を間違う訳あらしまへんやろ。
「……ええんどす、沖田はん。うちにはもう行くとこも帰るとこもおへんさかいに」
抑揚のない声どしたけどほんまは優しい子ぉどす、うちが腰でも抜かしてほぉけてるんや思うたんやろなぁ。
せやけど違うんどす。
自分でもよぉわかりまへんのやけど、うちはもうこのお人から離れたないて思うたんどす。
いつの間にか、妙な感情植え付けられてしもてたんどすなぁ。
無くしてから気ぃつくやなんて我ながらほんに間抜けどして……笑てまいます。
「なぁ沖田はん」