飼い猫と、番犬。【完結】



初めての御霊会。
どきどきした。


故郷である日野は、京とは比べ物にならないくらいに簡素で辺鄙な片田舎だった。


だから夜、これだけの人が集まるということだけで自然と心が沸き立つ。


いつものように湯屋に行くと出てきたからあまり長居は出来ないけれど、それでも私は、どうしても祭の空気が味わいたくなったのだ。


持ってきた簪を髪に差して通りに紛れれば、誰も私を沖田総司だと気付くことはない。


薄く紅だけ引いたのは最後に少し、女の自分に戻りたくなったから。





町には棒天売(棒の両端についた皿に商品を乗せて売りにくる商人)がそこかしこで品物を広げている。


賑やかな夜。


人混みの中きょろきょろと首を動かし、時折通りにそびえる鉾を見上げては、その華やかさに感動した。


まだまだ生活の貧しい私達。散財する訳にもいかなくて眺めるだけの祭だけど、めっきり明るいことのなかった私にとって、ただそれだけで気が紛れた。



あちらこちらとふらふらしつつ、やって来たのは鴨川の上。


遮るもののない此処は、通りよりも幾分風が強くて気持ち良い。


四条大橋から下を見下ろすと、その大きな川は微かな水の音だけを響かせて、闇の中を流れていた。
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