飼い猫と、番犬。【完結】



『少しだけ、私に手を貸して欲しいんです』



けれど、藤堂組長を助けたいと願う貴女の重みをこの身に感じた時、冷静な自分がいけないと叫ぶ一方で、少しだけ、心が震えました。


必要とされていること、
貴女から俺に触れてきたこと、


それが、一人の男として単純に嬉しかったのです。


繕いきれなかったのか、俺の前でも涙を浮かべた貴女が酷く愛おしくて、思わず手を伸ばしていました。


抱き締めたかった。
唇を、寄せたかった。


そんな思いを必死に堪えました。


貴女は、気付いていなかったでしょう?


件(クダン)の日、本当は貴女を一人で行かせることに躊躇しました。


貴女が死を覚悟しているように見えたから。


でも俺がいないとすぐ貴女がいないことに気付かれてしまう。
そうなれば本末転倒。


故に出かかった言葉を飲み込み、貴女を見送ったのです。


結局、貴女が心配で部屋に戻れなかった俺の目の前に貴女を抱いた山崎さんが現れてほっとしたのですが……。



『これが世話んなったな』



なんてにっこりと微笑むその人には、もしかしたら俺の気持ちなんて気付かれていたのかもしれません。
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