飼い猫と、番犬。【完結】
元より特別な扱いを受けることを嫌悪していたあいつ。一度破綻してしまえば汚い仕事にも進んで関わる様になった。
見目と相反する恐ろしい程の強さ、剣技。
京の町でもその噂がまことしやかに囁かれる様になっていく。
皆といる時でさえどこか以前と空気を変えた総司は、鯉口を切った途端まるで別人の如くに冷笑した。
同じ女であるお梅すら手にかけてもまた、笑う。
泣きそうに気配を震わせて。
それでも俺は、見ないふりをした。
見てはいけない。新選組の副長として、今更後悔などしてはいけなかった。
きっと俺も、総司も、張り詰めた細い糸の上を歩いていたのだ。変わらない上辺を装い、全てに気付かないふりをして。
そんな時だった。
あの男が現れたのは。
散らし髪に黒の長着を纏った不思議な男。
これまでも裏の仕事についていたというそいつは、何を気にするでもなくずかずかと俺達の中に踏み込んできた。
歯に衣着せぬ物言いで、俺にすら怖じけず意見するそれは嫌いじゃない。寧ろ気持ち良くすらあった。
総司も、あれを相手にしている時は人間らしくあった。
京に上って久々にみるその自然な姿に俺は、どこか安心したのだ。
例えそれが、他の男の力であろうとも。