飼い猫と、番犬。【完結】
あいつを一等に考えてやれない俺は、もうあれに手を差し伸べてはいけなかった。
他と変わらぬ距離を保ち、ただ冷静に言葉を交わす。
山崎におちょくられながらも少しずつ、昔のあいつを取り戻していく総司の姿を遠目に眺めた。
二人に、過去を見た。
……やっぱおめぇは趣味が悪ぃ。
誰にも気づかれないように苦笑いして、踵を返す。
疼く心には蓋をして、其々に仄めく想いに沸いた嫉妬さえ噛み殺し、俺は鬼面をつけ続けた。
かっちゃんと……近藤さんと語った夢の為に、俺は徹底して鬼を演じた。
嫌われても良い。
憎まれても良い。
あいつが昔みたいに笑うなら、俺はそれで良かった。
そして、奇しくも山南さんの粛清の時。
漸く俺の中で何かがストンと落ちていった。
──ああ、もうこいつが必要とするのは俺じゃない
そう気付いてしまえば、最後の最後にしがみついていた想いの欠片も、不思議と容易く手離すことが出来た気がした。
きっとそれが、過去に囚われ続けていた俺達が同時に一歩、前を向いた瞬間だったのだ。
勿論想いは変わっても情はある。
だが俺にはやるべきことがあった。目指すものがあった。
振り向かないと決めたから。
お前が手を伸ばす先にいるのはもう、俺じゃないから。
だから俺は、本物の鬼になろう。
今度こそ、後悔のないように。