飼い猫と、番犬。【完結】
じっと思案に耽っていた俺を、沖田が不思議そうに覗き込んでいる。
「……や、なんでもあらへんよ」
「そう……ですか?」
普段は眉間に皺付きで睨まれるか、呆れた白い目が向けられることばかりだが、ふとした瞬間のこういう表情がこれの素を表す。
俺に向くその感情に満足して、沖田の頬にそっと指を滑らせた。
今更あの時のことを掘り返す必要はない。真実は俺だけが知っていれば良い。
……結局捨てんかったんやな。
それでも顔は自然と綻ぶ。
これの確かな変化を俺は知っているから。
「そーちゃん」
「っ」
唐突に唇を寄せた俺に沖田が固まる。一気に上気した顔がまだまだ初で、笑えた。
「気ぃ変わった。俺んとこおいで」
「……は?や、でもっ」
「早よして早よ寝たらええやん。ちゅうことで善は急げや」
「早よしてって貴方ですね……!」
俺は、決して何もやらない。
裏に生きる以上、突然戻らなくなるかもしれない俺が、誰かを何かで縛る訳にはいかないのだ。
だからその身体に俺を刻む。
他の何かに俺を見ないように。
人は死んだ時点でただの過去になる。
だから俺は何も遺さない。
後悔も何も。
だから俺は自由に生きる。
そんな俺が誰かの記憶の片隅にでも残ることが出来たなら、俺はただそれだけで満足だ。