飼い猫と、番犬。【完結】
湿り気を帯びた夏の風が足許を吹き抜ける。
間もなく夕暮れ刻も終わろうかという今時分でも、この時期寒さなどは微塵も感じない。
『湯冷めせんうちに』
あれは単にさっさと来いということなんだろうけれども。
……行けるか。
まだ陽があった。
人の通りもあった。
気恥ずかしさも……ある。
故にいつもならあり得ないくらい丁寧に髪を拭きあげ櫛を通した。
ただ時間を稼ぎたかっただけなのに、ふとあいつの為に身繕いしているように見える気がして途中でやめて。
漸く薄暗くなり始めた今、のろのろと遅い歩みで真っ直ぐな廊下を歩いている。
久々に会ったあいつは相変わらず助兵衛で変態で、嬉しさよりも恥ずかしさが先行した。
でも。
あの一言が、触れる唇が、あいつの珍しい本音を熱で伝えて。
そこから何かが浸透するように、嬉しさが身体に満ちていった。
久し振りに立った、人気のない物入れのような木戸の前。
これを開ける意味はわかっているから少し躊躇う。
それでも気配に聡いあいつなら私がいることなんてとっくにお見通しの筈だ。ずっと立ったままという訳にもいかない。
それに、私だって触れたくない訳では……ないのだ。
緊張する指先を恐る恐ると戸に掛ける。