飼い猫と、番犬。【完結】
そろりと覗いた部屋の中では山崎が布団の上に寝転がっていた。
……寝てる?
後ろ手に戸を閉め、気配を消して忍び寄るもピクリともしない。
こちらに背を向けているそいつの顔は髪に隠れて見えないけれど、戻ったばかりで疲れている筈だ。寝てしまっていても可笑しくはない。
……なんだ。
ほっとしたような、淋しいような微妙な感覚に、一人でドキドキしていたのが馬鹿馬鹿しくなって細く息を吐く。
眠いなら眠いで言えば良いのに。
そう思わず唇が尖るものの、それでもわざわざ会いに来たのだと思えば嬉しい訳で。
……お疲れ、なんですよね。
一度はそのまま戻ろうとも思ったのだけど、夏とはいえ着流し姿で寝ているそいつが気になって。何か掛ける物をと近くにあった長着を手に取り膝をついた。
「遅い」
「わっ」
突然腕が掴まれ体が傾く。
気付けば組み敷かれた私の上で山崎がムスッと見下ろしている。
「お、起きてたんですかっ」
「そら人来たら起きるわい。俺を誰や思てんねん」
あ、やっぱり寝てたんですね。
と思ったのも束の間。
するりと首に寄せられた唇に身体が震える。