飼い猫と、番犬。【完結】

そろりと覗いた部屋の中では山崎が布団の上に寝転がっていた。


……寝てる?


後ろ手に戸を閉め、気配を消して忍び寄るもピクリともしない。


こちらに背を向けているそいつの顔は髪に隠れて見えないけれど、戻ったばかりで疲れている筈だ。寝てしまっていても可笑しくはない。


……なんだ。


ほっとしたような、淋しいような微妙な感覚に、一人でドキドキしていたのが馬鹿馬鹿しくなって細く息を吐く。


眠いなら眠いで言えば良いのに。


そう思わず唇が尖るものの、それでもわざわざ会いに来たのだと思えば嬉しい訳で。


……お疲れ、なんですよね。


一度はそのまま戻ろうとも思ったのだけど、夏とはいえ着流し姿で寝ているそいつが気になって。何か掛ける物をと近くにあった長着を手に取り膝をついた。




「遅い」

「わっ」



突然腕が掴まれ体が傾く。


気付けば組み敷かれた私の上で山崎がムスッと見下ろしている。


「お、起きてたんですかっ」

「そら人来たら起きるわい。俺を誰や思てんねん」


あ、やっぱり寝てたんですね。


と思ったのも束の間。


するりと首に寄せられた唇に身体が震える。
< 500 / 554 >

この作品をシェア

pagetop