飼い猫と、番犬。【完結】


ゆっくりと焦らすように私の中に入ってくる私でないもの。


何度経験しても慣れないその感覚は私の思考を霞ませた。


あれ程堪えていた声も、もう抑えられない。


「奏」


そう呼ぶ声が少しだけ余裕をなくしたように聞こえたけれど、奥まで沈んだその身体に唇までもを塞がれた私には、その表情を窺い知ることは出来なくて。


それどころか動き始めたその身体に益々思考が奪われる。


深く重なる唇からでは息をするのもままならなくて、少しだけ苦しい。


なのに尚もその手に与えられる快楽が私を捕らえて放さない。


自らその首に腕を回して、舌を絡める。


逢いたかった。
触れたかった。

触れて……欲しかった。


毎夜訪れる不安も、今日だけは怖くない。


今だけはこいつで一杯になれる。


満たされる。



今だけは。








「奏」



ふわふわと滲む意識に山崎の声が擽ったい。


感じるのは柔らかな感触にちくりとした痛み。


きっとあいつの印がまた一つ、そこに咲いた。
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