飼い猫と、番犬。【完結】
蛍狩り 其れは闇を照らす標―― 歳三目線
『今晩抜けられるか?』
そう言って私を蛍狩りに誘ってきたのは、ずっと好きだった土方さんだった。
勿論即答だった。
昔はバラガキと呼ばれたらしいその人は、確かにがさつで口も悪かったけど、此処の皆にはない凛とした男らしさがあった。
初めは男として育てられた所為か、あんな風になれたらと、その男らしさに憧れていただけだった。
けど女と知っても他の皆と変わらない態度で扱ってくれるその人に触れられる度ドキドキして……目が離せなくなった。
平助に『それが好きってことなんだと思うよ』なんて言われて、益々ドキドキするようになった。
初めてだった。
意識してしまえばそれはとてもむず痒くて擽ったくてこそばゆくて心の臓に悪い。
でも、その整った容姿もあってその人は女の人にもてる……らしい。
近藤さんや左之さん達が茶化して言う女の人の話に、私はただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
だから、こんな男か女か未だによくわからない生活をしている私があの人を好いても迷惑だろうと、想いを告げるつもりはなかったのに。
それでもあの人からの誘いは頬が火照るくらいに嬉しくて。
普段湯屋に出る時くらいにしか着ない浴衣に袖を通した私はその夜、こっそり試衛館を抜け出した。