飼い猫と、番犬。【完結】
「知ってるか?蛍は死者の魂なんだとよ」
淡い光に仄かに照らされた顔が不敵に笑う。それはいつもの虐めっこの顔だった。
死者の──そう言われて改めて見ればその動きは火の玉のように見えないこともない。
でも暗闇に浮かぶ無数の光はやっぱり美しく、恐ろしいものには見えなくて。
同じく作った笑みを返した。
「またそんなこと言って。私がそんなもの怖がると思いますか?」
「チッ、可愛くねぇな。やっぱ中身はいつものまんまか」
「私に可愛いなんて求めないでください。それにこんな綺麗な幽霊なら生きてる人の方がよっぽど怖いですもん」
「はっ、違ぇねえ」
内弟子となって暫く、ふでさん(近藤勇の義母)を始め、近藤さんに気をかけてもらえた私は事情を知らない兄弟子達にも幾度となくいびられ続けた。
生きてる人間の方がずっと陰険で恐ろしい。
強くなければ生きてはいけなかった。
沢山沢山努力して、今の私がある。もう誰にも文句なんて言わせない。
あそこにいる限り、やっぱり私は沖田総司でしか生きられないのだ。
だからと言って見知らぬ誰かと夫婦(メオト)になってあそこを出るつもりなんて毛頭ない。
何度も縁談を持ってくる近藤さんには悪いけど、そうするくらいなら私は女でなくたって良かった。
何年もかけて築いた平穏、作り上げた居場所なのだ、私には今の生活があればただそれだけで良かった。