飼い猫と、番犬。【完結】
だから……この人とはこのままで良いんです。
気不味くなるくらいなら何も言わない望まない。
こうして話せる、それだけで私はこんなにも嬉しいのだから。
「……土方さんはお嫁さん、貰わないんですか?」
繋がれたままの手。
会話が途切れ、川の流れる音だけがさらさらと私達の間を通り過ぎる静けさに耐えかねて、思い付いたままの言葉をぶつけて。
少しだけ、後悔した。
「……なんでぇ急に」
「や、だって近藤さんが毎日心配してるんですもん」
少し前に産まれた娘のたまちゃんにでれでれな近藤さんは、ひとしきり我が子自慢をしたあとに必ず土方さんの心配をする。
お前も早く所帯を持ったら──
そうぼやくその人を土方さんは適当にあしらうけど、確かにそこそこ良い年だ。
もし、突然祝言を挙げるという話を聞くことになるくらいなら好い人がいるということだけでも先に知ってた方が良いかもとか……やっぱり怖いなとか。
口にしてから押し寄せる複雑な不安に内心じたばたしながら、その人から逃げるように反対方向へと視線を逸らした私の目の前を、蛍が優雅に泳いでいった。