飼い猫と、番犬。【完結】


「……正直、あいつを見てると確かに所帯持つのも悪かねぇなとは思うが俺はまだ無理だな。何せ向こうがどんくせぇ箱入りだからよ」



吐かれた言葉は予想していた筈なのに、ずしりと重たく腹に来た。


暗に好い人がいるのだと認めたそれは思いの外衝撃的で、頭の中が真っ白になる。


他の誰かから聞くことはあっても本人から女の人の話を聞くのは初めてで、顔も知らないその人に思わず眉が寄った。


聞きたくない──そう耳を塞いでしまいそうになる。


今日が月のない夜で本当に良かった。


こんな顔、見られたくない。




「……そう、ですか」

「だからまずはせめて飯くらいは普通に炊けるようになってくれると嬉しいんだけどよぉ総司」


……ん?



何か少し可笑しい。
まるで私に言ってるような気がするのは気の所為なのか。


そんな都合の良い考えを掻き消そうとふるりと首を振る。



「なぁ」



……のに、尚もその人は返事を急かすように声をかけてくるから怖い。


恐る恐ると振り向いた私は、僅かに背の高いその人を仕方なく見上げる。



「……あの、それは誰のことですか?」

「お前」
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