飼い猫と、番犬。【完結】


「……、へっ!?」


ない、絶対ない!



思わず心でそう叫んだ私は、握られたままの手が無性に恥ずかしくて慌てて振り払う。


「じょ、冗談はやめてくださいよっ」

「こら逃げんな、冗談じゃねぇって」

「だ……第一なんで私なんですか。貴方ならもっと他に……」



良い人がいてる筈だ。
私よりももっと女らしくて家庭的な人が。


何を思ってなのかは知らないけれど、質の悪い冗談は本当にやめてほしい。


一瞬でも嬉しいなんて思ってしまえばあとでどれだけ苦しいか。


そんなどん底の感情を、これまで何度も兄弟子達に遊び半分で味あわされてきたのだ。


だから私は期待なんてしない。


しちゃいけない。


傷付くくらいならもう何も望まない方が良い──






「総司」



きゅっと唇を噛んだところで低い声が名を呼んで、強引に腕を引かれた体は強制的に土方さんの方を向いた。


目に入ったその人の浴衣にピクリと体が跳ねて、慌てて俯く。
顔を見るのが、怖かった。



「土方さ……」

「俺は同じところからものを見れる奴が良い。横に立って一緒に歩ける女が良いんだ」



けれど近くに聞こえるその声はとても真剣で。
動けなくなる。
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