飼い猫と、番犬。【完結】
女として生きられるのかもしれない。
皆とも離れずに、ずっとこのまま。
この人の隣で、今度こそ真っ当な女としての人生が歩めるのかもしれない。
いつかこの手にややを抱き、その成長を二人で眺めて、笑ったり怒ったり出来る日が来るのかもしれない。
こんな私でも、今度こそ本当の家族が出来るのかもしれない――
そう思えば込み上げるものを我慢なんて出来なくて。
やっぱりその人の顔は見ることは出来なかった。
「総司」
「っ」
「こっち向けって」
「やっ……」
「いいから。……奏」
まさか呼ばれるとは思っていなかった名にハッとして顔を上げる。
少しだけバツの悪そうな顔をしたその人は、それでもどこか穏やかな目でそっと息を吐き出した。
「悪ぃ、前に一度だけあいつに聞いたんだ。あいつも、ずっとお前を心配してんだよ 」
あいつというのは聞くまでもない。
近藤さんだ。
だって此処では近藤さんの両親との三人しかその名を知る人はいないから。
近藤さんとは兄弟のように親しいこの人ならそれを聞いていても可笑しくはなかった。
……もしかしてそれで……?
と、また気持ちが沈んでいきかけた私の顔を、土方さんは自分の袖で乱暴に拭う。