飼い猫と、番犬。【完結】
「言っとくけど、あいつは関係ないからな」
そんなにわかりやすく顔に出ていたのだろうか。
ムスッと怒ったように眉を寄せたその人。
「俺はお前だから所帯を持っても良いかと思ったんだ」
それはぶっきらぼうな言い方ではあったけれど破壊力は抜群で、はっきりと言葉にされたそれに、私の方が何も言えなくなった。
涙は止まった。
けれど代わりに湧き上がるこのかつてない恥ずかしさはなんなのか。
嬉しいよりも照れる。無理。
まともに顔なんか見ていられなくて、私は再び視線を落とした。
なのにその人もまた掴んだままの手首を引っ張って。
「奏」
その名を呼ぶから。
思わず顔を上げてしまう。
途端に何も考えられなくなったのは、唇が、触れたから――
「……おい、息止まってんぞ」
「っ、わ!」
近い!
目も口も固く閉じていた私は、尚も鼻先が触れそうに近いその人に慌てて目を瞑る。
初めての口付けは嬉しいとか幸せとか一切なくて。
只々ドクドクと脈打つ胸が五月蝿くて苦しくて、なんかそのまま腰まで抜けてしまいそうだった。