飼い猫と、番犬。【完結】
「……こっちも一からか」
いつの間にか腰に回っていたもう片方の腕に阻まれ逃げられない私に降ってきた呟き。
独り言のようなそれにうっすらと目を開ければ、またも突然唇が触れる。
「ーーっ!?」
「ま、今日はもう帰んぞ。話はまた次だ次」
「へっ?……あ、は、はいっ」
けど言葉の出ない私の手を強引に引いて土手を登り始めた土方さんにはもうついていくしかなくて。
そんな強気なところも、ほわほわと余韻の残る頭では男らしくすら見えてしまう。
幾ら男のふりをしていても所詮私は女でしかないから。
もしかすると本当は、こうして誰かに強く手を引いて欲しかったのかもしれない。
「……まだ誰にも言うなよ。まずあいつには俺から話す」
「ふふ、はい」
「お前はすぐ顔に出るからな……」
「えっ、そんなことないです、大丈夫ですっ!」
「…………そうか」
(彼女の片思いは近藤さん以外、皆気付いてました)