飼い猫と、番犬。【完結】
ぷつり
掌に滑り落とした苦無でその喉元に小さく穴を開ける。
そしてもう片方の手で胸ぐらを引っ掴んだまま、その耳許にそっと唇を寄せ囁いた。
「嫌よ嫌よも好きのうちってな、あれ、俺のかわええ恋仲やさかい変な気ぃ起こされたら俺も何してまうかわからんよって。せやから……な? 堪忍や」
ちょっとばかり甘く。
耳朶に触れながら吐息混じりに忠告してやれば、漸く状況を理解して飛び退いたそいつは真っ赤な顔で混乱中だ。
「な、なななっ、おまっ」
意外とおぼこいのーこいつ。
どうやら完全な衆道という訳ではないらしい。恐らく脱走する前にどうせならお試しで男色をーくらいの興味なのだろう。
「……俺らんこと黙っとってくれたら自分らの話も聞かんかったことにするよって、お願い出来るやろか?」
極上の笑みを作りながら苦無の頭にある輪っかに指を入れ、くるくると回す。
可愛い脅しだ。
だがあくまで緩く。後ろに逃げ道を作ってやる。
「……っ、行くぞ」
そうすればもう向かってはこないから。
さいなら。
ぴろぴろと指先だけで三人に手を振り、その後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあと、俺は漸く後ろを振り返った。
「ややわーこっそり見てんと助けてぇや?」