飼い猫と、番犬。【完結】
「どなたかから頂いたんですか?」
いつも深くには踏み込んでこなかった彼女のそんな言葉に少し迷って、目を泳がせた。
貰った相手を思い浮かべては、じわりと染み出す感情にあの時の記憶が首をもたげて、思わず奥歯を噛んだ。
今口を開けば間違いなく過去に触れる。
だけどどろりと拡がっていく言いようのない不安が、ギリギリのところで頑なに耐えていた何かを飲み込んでいって。
俺はまた、掌の中のそれをぎゅっと握り締めた。
「……大切な人の物、でした。でももうその人はいなくて、俺だけがこうやって生きてる。……生きてほしいと望まれた筈なのに、生きなければと思うのに、俺は今、どうして生きているのかわからなくて……俺は……っ」
何で生きてるんだろう。
そんな疑問が俺を侵食した。
総司が望むなら生きようと思った。
あいつの分まで生きなければと。
でも新選組の終わりを知って、全てがわからなくなった。
安穏に慣れるのが怖くて、不安で。
俺の時間だけがゆったりとした時の中で刻々と動いていることが酷く申し訳なくて。
けれど総司のことを思えば、そんな風に思ってしまう自分にまた嫌悪して。
何もかも、わからなくなる。