飼い猫と、番犬。【完結】

その言葉に廊下の影から静かに現れたのは斎藤一。


一郎が出てきたあたりから気配を潜めてそこにいたのだが、こうして声を掛けられても表情一つ崩さないところは流石だ。


と言うか俺が気付いていることも承知の上だったのかもしれない。


「助ける必要もないだろう?」

「冷たいなぁー」


淡々と吐かれた言葉にへらへらと笑って返す。


寡黙で無表情の彼とこの俺の性質は真逆の様でいてその実、同じ。


ただどちらも感情を表に出さないだけ。


だからだ、何となく同じ臭いがする。


「放っておくのか?」

「さあ? まぁそのうち土左衛門でも浮くかもしれへんけどな。それか辻斬りが彷徨くとか?」

「……報告だけはしておけ」

「はいな」


いくら不必要な人間でも他の隊士の目もある、まだ何もしていない奴に堂々とは手を出せない。


しかしながらああいった考えの輩はいつ何をするかわかったもんじゃない。


あいつらの画策はそれだけでも士道に背く。最早立派な隊規違反、粛清対象だ。


そう自らに言い聞かせて正当化してみるも、本音を言えばああいう下衆い人間が嫌いなだけだったりするのだが。


俺の可愛いおもちゃに手ぇ出そとか百年早いわ。


そんな私怨染みた思いにくすりと口角をあげて斎藤くんの横をすり抜けようとすると、


「お前は」


はっきりとした口調で溢された言葉に足が止まった。
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