飼い猫と、番犬。【完結】
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その日、たまたまバイトのなかった俺は半ば無理矢理新歓に引き込まれた。(勿論財布目当てだ)
まあ来てしまった以上楽しまねば損と、それなりに楽しんではいたのだが、一人、周りに溶け込もうとする様子もなく唐揚げにかぶり付く女を見つけて、ふいに気になってしまった。
その顔には見覚えがあったからだ。
入学式の日に遅刻しかけていた間抜けな奴。
すっかり忘れていたあの日の出来事を思い出した直後、不意に目があったそいつは覚えているのかいないのか、ただおどおどと頭を下げた。
まあ出会いの多いこの時期、顔なんて覚えていなくて当然かとあまり気にはしなかったのだが。
それでもその唐揚げの食いっぷりといい、烏龍茶(と思われるもの)の飲みっぷりはその可愛いらしい顔に似合わず豪快で、つい鼻で笑ってしまった。
おっさんか。
面白そうな奴だと、後で声をかけてみようなんて思っていれば、そいつが席を立ったのを追いかけるように、近くにいた男もいなくなる。
あの遊び慣れてない感じが、派手に遊んでいるあの男の興味をひいたんだろう。
そう気が付いてしまうと何となく放っておくのも忍びなくて。
「あれーどこ行くの?」
「トイレ」
暫し悩んだ結果、俺は仕方なく二人を探してみることにした。