飼い猫と、番犬。【完結】


「あの時ぶつかった人ですよね?」


此方を窺うような声に真横に視線を戻せば、くりくりとした目がこちらを向いていて。


「あーうん、覚えてたんや」

「やっぱり!やっ、すみません、正直顔というかその喋り方で思い出したんですけど。この前もさっきも、色々迷惑かけてごめんなさい」


さっきまでとは打って変わって、コロコロと表情を変えながら話しかけてくる様子は思いの外話しやすい。


ほんの数分前になんの躊躇もなしに男の股間を蹴り上げた女と同じだとは到底思えない程に、その笑顔は爽やかだった。


……女にはわからんのやろな……。


ついと思い出したあの体の奥が引きつれるような感覚に頬をヒクつかせているうちにもさっきの男が戻ってきて。


「あ」


少し離れた場所に怯えるようにして座ったそいつにその子はまた忌々しそうに眉を寄せる。
どうやら一度敵と見なされるとそこに容赦はないらしい。


少々恐ろしくもあるが、しかしながら裏表のないその様は嫌いじゃなかった。



「……抜けるんやったら協力するけど?」



ここは一つ恩を売りつつあわよくば。


「んーでも友達が」

「大丈夫そやで?あっちでめっちゃ親指立ててる」

「……」


喋らずともジェスチャーだけで俺の意図を組むあの友達はある意味凄い。


どうする?、と首を傾げる俺に、隣の彼女は暫し逡巡したあと、細く息を吐いてにこりと笑った。


「じゃあ……――」




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