飼い猫と、番犬。【完結】
「はーやっと帰れるっ」
多くの居酒屋が詰まったビルのエレベーターを降りると彼女はそう言って大きく伸びた。
「今日は有り難うございました。でも本当に良かったんですか?一緒に出てきて」
「ええねんて。それより折角やしライン教えてや」
今日のところはそれだけ聞けたらまあ良しと、ポケットからスマホを取り出すと、俺に対しての警戒心はあまりないのか、良いですよと二つ返事で彼女もまた鞄からそれを取り出す。
彼女の指が飾り気のないシンプルな画面をタップして、そこに現れたQRコードでそのIDを拾った――直後だった。
「……んだてめぇ?」
後ろから何やらドスの効いた声が降ってきた。
「あ、お兄ちゃん」
……はい?
彼女の嬉しそうな言葉に声のした方を振り向くと、そこにいたのは見知らぬ三人の男で。
「ちょっと、あんた誰?」
「……うちの妹に何か用か?」
各々が今にも噛みつきそうな空気を纏い、俺を睨みつけていた。
「もーいきなり威嚇しないでくださいよっ。この人はただ私が抜け出すお手伝いしてくれただけなんですからっ。すみません、えと、うちの兄と、兄と、こっちが双子の弟です」