飼い猫と、番犬。【完結】
ヒールさえ履けば簡単に俺を追い抜くこいつの身長も、こうしてみれば中々追い詰めやすい高さだった。

ふわりと仄かに香るシャンプーの匂いがゴテゴテと着飾らないこいつらしくて尚そそる。


「早う」

「わっ、わかりましたから……!」


逃すまいと至近距離でその目を見つめる俺に根負けしたそいつは、照れに目を潤ませて、近付く俺の服を頼りなく握る。

まるで誘われているような。

僅かに顎を引いた奏の大人になりきれていない微妙なその表情に、思わず唾を飲んだ。


「……――――」

「ん、よく出来ました」


口の中で呟かれたそれはとても小さく聞き取るのもやっとではあったけれど、そのまま唇を塞いでしまえばそんなことはどうでも良くて。

びくりと身体を揺らしたそいつの指に力が籠ったのが引かれた服から伝わってくる。

柔らかな唇。

その吸い付くような感触に、そっと体の芯が熱くなる。

軽く触れただけの唇を僅かに離して窺い見た奏の、硬く閉じた目に湧いた悪戯心のまま、俺は再び唇を重ねた。
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