飼い猫と、番犬。【完結】
ちゅ、と音を立てて食むように唇を吸う。
舌先でそっと撫でるように触れれば、そいつは慌て逃げるようにして微かに身を捩った。


「やっ、先ぱ」

「先輩ちゃう」


静かに閉館の放送が流れるのを聞きながら、奏の言葉を飲み込む。

真面目な奏のことだ、場所も、時間も、色々言いたいことがあるのだろう。

でも男として言わせてもらえば、こんな時にこんなところでだからこそ燃えるもの。

少しくらい、と開いた唇の縁を軽く舌でなぞって弄ぶ。

ん、と小さく漏れた声が、然程広くないこの本棚に囲まれた空間に吸い込まれていった。



「……気持ちいい?」

「ばっ、ばかっ!」


そんな問いにハッとしたように、掴んでいた服を離すと奏は俺を突き飛ばす。

信じられません! とぷりぷりしながら一人で戻っていくそいつだが、真っ赤に照れたその顔では全くもって怖くない。


「ええやん、まだ今のは可愛い方やで?」

「もっ、問題はそこじゃないんですっ! こんなところで――」

「ほなここやなかったらのんびり付き合うてくれる?」

「なっ……」



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