飼い猫と、番犬。【完結】
置き去りだった私物を片付けるそいつの揚げ足をとって言葉を返すと、奏は口を開けたまま固まる。

赤い顔をますます赤く染めるそいつに微笑んだところで、職員から声がかかった。


「閉館なので」


当然ながらいつの間にか最後になっていた俺たち。
そんな第三者の登場に流石の奏も「あ、はい」と若干の冷静さを取り戻す。

が、言ってしまった言葉を取り消すことは出来ない。


「ほな続きはまたあとでゆっくりお勉強しよか」


他意たっぷりの笑みで残った荷物を手に持ち、その手を握る。


「あ、あのですねっ」

「ほら早よ出な邪魔なんで」


この時ばかりはあの兄貴たちの教育も悪いことばかりではないなと思う。
中々単純で律儀なこいつは、もうきっと逃げられない。


――さてどこに行こ。


慌てながらも手を振り払うことなくついてくるそいつに次なる算段を考えつつ。

すっと、その手に指を絡ませた。


「いっそ俺んちは?」

「……それならうちへどうぞ。弟と同じ部屋ですが」

「絶対嫌や」


まだまだ前途は多難、らしい。


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