飼い猫と、番犬。【完結】
おまけ
お題、びーえる。
エロくはないけど本編に出てきたあの人なのでちと注意。
「良いねぇ、もっと足掻きなよ」
池田屋――そこにいた男があの時の男だと気付くのに然程時間はかからなかった。
あれと出会ったのは数年前。
月の綺麗な夜だった。
祇園の近くを通りかかった時、酔い潰れて隅に転げていたのがあいつ――栄太郎という男だった。
『どうして』
うなされるように、
泣きそうに、
ほぼ正気を失っていながらも何かを憂いていたそいつは、たまたま通りかかった俺に執拗に絡んできた。
面倒だと思いつつ無駄にしつこく話しかけてくるその男をさっさと厄介払いしようと、仕方なく泊まっているという旅籠まで連れて行ったとき。
なんだかんだで部屋まで付き合わされた俺は突然そいつに押し倒された。
勿論引き剥がすことも出来た。
けれど、
『どうしてあの人が殺されなければならなかったんだ』
悲痛に顔を歪めるそいつを見ると、何故かそうすることは出来なかった。
今の時代、理不尽に命を失うことは少なくない。俺だって奪う側に立つこともある。
だから少しばかり同情、したのだ。
酒臭い舌が口内を乱暴に弄(まさぐ)る。
ただそのやり場のない感情をぶつけるように雄々しく、畜生の如くに俺を貪った。
決して心地よくはないそれに、俺もまた舌を絡めて応える。